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  アルツハイマー病

黒田洋一郎著

 
  (2)鉄剤

  アルツハイマー病、しかも遺伝性のアルツハイマー病と確定した患者さんに治療効果があり、症状を改善し発症を少なくとも二年遅らせたという報告は今川正樹(兵庫県立尼崎病院)によって1992年におこなわれた。この女性の患者Aさんの姉がまず日本で珍しい遺伝性のアルツハイマー病にかかっていることがわかり、Aさん自身も21番染色体に突然変異をもっていることが辻省次(新潟大学医学部)によって証明され、発病が心配されていた。
  治療法は、よく使われる脳代謝改善薬(コエンザイムQ10とビタミンB6)のほかに、クエン酸第一鉄を入れたのが特徴で、この三種の薬を毎日二年間にわたって飲み続けた。Aさんはバイクに乗って買い物に行けるほど回復し、姉さんのほうも症状の悪化、進行がなくなった。また薬をやめるとその休薬期には症状が悪くなり、また飲むと良くなった(図5-1)。
この例は家族性アルツハイマー病で、遺伝子レベルでの診断は確定していると考えられたので英国の医学雑誌「ランセット」に発表できた。その後も、鉄剤などを飲み始めてから約五年間、自発的に身の回りのことをしたり同じ病気の姉の看病をしていて、長谷川式やFASTなどのテストの成績もよくアルツハイマー病とは決していえないほどに回復していた。
  しかし約五年後Aさんに阪神淡路大震災が襲い、しかも姉の死が続いた。地震後の混乱で、二ヶ月ほど病院へ行けず薬をもらえなくなったAさんは、姉の死による精神的ショックも大きかったのであろう、症状が大きく悪化した。そして最近また薬によってか、少し良くなっているという。
  今川の報告によれば、ほかの孤発性アルツハイマー病と診断されている例でも改善例はかなりあるらしい。十九人のアルツハイマー病例はアメリカの痴呆評価の重症度で中度と重度を合わせた数が全体の89%あったものが、薬を八週間飲み続けた後は37%に低下した。ビタミン類の大量投与は、脳内ミトコンドリアの活性化など、今までもよく使われていた脳代謝の改善を目指した対症療法であるが、新しい方法では鉄を加えており、ビタミン類だけ投与した場合よりはるかに良い結果が出ている。鉄剤は、第4章で述べたように鉄輸送蛋白トランスフェリンなどを介してアルミニウムの代謝に関係している可能性もある。この結果では本当に病気が進行してしまった人の例は効果がなく、除いてあり、発症年齢が遅れて、発症後なるべく早くこの治療をした人のほうが効果が大きいらしい。
 
  「アルツハイマー病」より抜粋  
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